先日、私が所属している少年野球チームのシートノック中に起きた出来事からの話である。
ノーアウト2・3塁の局面で指導者Aは前進守備ではなく、
定位置で守り、確実にワンアウトを取るようにと選手達に指示をした。
それを見ていた指導者Bは、「プロでもあるまいし、前進守備を取らないのはおかしい。」と
前進守備を指示しない指導者Aに異を唱えた。
指導者Aは、選手達が低学年という力量を考慮したうえで、意図して指示を出した。
指導者Bは、高学年になった時に困らない様に、セオリーから今、学んでおくべきだという考えであった。
結論としては、両者の言い分はどちらも全く間違っていない。
前者を肯定したら後者の立場がないし、逆に後者を肯定したら前者の立場もない。
両者の下で指導者を行ってきた私にとっては、大きなストレスを抱える立場となった。
実社会においても、誰しも一度はこのような似た経験をしたことがあるのではないだろうか。
こういう事象を心理学の世界では、ダブルバインドというのだという。
「監督と選手」「親と子」「上司と部下」「先輩と後輩」など、立場の違いや上下関係などが、
このような精神的な二重の拘束を生み出す背景にあるという。
特養では交代勤務制ということもあり、新人職員に対して常に一人の指導員が
早番から夜勤まで完全に付きっきりということは物理的に困難な状況にある。
新人職員の業務日誌を見ていると、指導員Aの言われた通りに業務を実行したものの、
指導員Bには違う方法を指導され、どうしたら良いのかわからなくなったといった類の
業務日誌を見かけることが稀にある。
そういった事態を未然に防ごうと、どの事業所においても業務マニュアルなどを作成し、
業務の平準化を図っていることだろう。
しかしながら、対人援助の場面においては、時に業務マニュアルに頼りきれない微妙な部分も存在する。
行間を読むというか、暗黙の了解的な、その部署のみのローカルルールが蔓延っているケースも往々にして存在する。
ローカルルールが発生するのは、業務マニュアル自体が現場にフィットしていない事が考えられるが、
より平準化にするためにアップデートしていく作業工程自体もなかなか容易ではないのが悩みの種なのである。
かつては、職員の職場に対する帰属意識に支えられ、成り立っていた組織も少なくなかったはずだが、
同一労働同一賃金、有給休暇の年5日消化、パワハラ防止法etc…
法改正が進み、より組織における職員の働き方が問われる時代へと大きく転換しようとしている。
これは何も製造業などの他産業だけの話ではなく、高齢者施設においてもあてはまることである。
「業務の平準化」、単純な方程式のようには解けないジレンマにまだまだ悩まされそうである。